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2009.12.20

ザ・ラスト・ブレンデルを聴く。

Photoあるクラシック楽曲を初めて耳にするとき、だれの演奏で聴くかがとても重要に思う。同じ原曲でも、演奏者の解釈やコンディションで随分印象が変わる。始めに聴いた演奏が自分にとってのその楽曲の“定番=スタンダード”となるからだ。
ピアノ音楽が好きなワタシは、その“マイ定番ピアノ曲”を、この大御所の録音で多くを得てきた。それはアルフレート・ブレンデル。この巨匠ピアニストの弾くベートーヴェン、モーツアルト、シューベルトなどドイツ~オーストリア系の王道古典楽曲の数々の録音は、美しく、安定的で、奥深い感銘をいつも与えてくれた。
そのブレンデルが60年間のピアニスト活動に終止符を打ち、ちょうど1年前の2008年12月18日のウィーンでの演奏会をもって引退。そのときのライヴ録音が、その4日前にハノーバーで行なわれた最後のソロ・リサイタルの様子とともに2枚組CDとしてリリースされた。このCD「アルフレート・ブレンデル ザ・フェアウェル・コンサート」には、件の3人の作曲家に加え、ハイドン、バッハを加えたまさにブレンデルの真骨頂を堪能できる「お別れ演奏」が収められている。とは言っても、けして枯れきったような演奏ではまるでなく、「なんで止めちゃうの?」と思わせる美しく力強い現役振りだ。

Photo_2ワタシは、演奏そのものの素晴らしさもさることながら、この最後のコンサートでのブレンデルの選曲を面白く感じた。そこには作曲家最後の作品で引退ムードをあおるような様子はまるでない。ウィーン・フィルをバックに弾いたモーツアルトの第9番協奏曲「ジュノム」。普通この場面で選ぶピアノ協奏曲は第20番以降の“晩年”の名品だろう。しかし、ブレンデルがその最後のステージで披露したのは、作曲者21歳のときの野心的作品だ。冒頭からいきなりピアノが“返事”をすることで度肝を抜く第1楽章、深み漂うハ短調の第2楽章、第3楽章ではロンドにメヌエットを挿入するという斬新な構造の佳曲。これはいかにもブレンデルらしいセレクトだと思った。
そのほか、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第13番やアンコールて弾いたバガテル作品33、モーツアルト のピアノ・ソナタK.533/494は、ともに作曲者30歳頃の壮年の名曲。また、ブレンデル十八番のシューベルトは、この早世の天才作曲家の「遺作」ながらもピアノ・ソナタ第21番作品960とアンコールで聴かせたお馴染みの即興曲作品988。ともに30歳のころの作品だ。比較的長生きをしたハイドンだが、ブレンデルの採り上げた「アンダンテとヴァリエーション」は、作曲者61歳の円熟の名曲。
それぞれ定番系ながらも、独創性に富み、新鮮な感動を与えてくれる楽曲を、ブレンデルの円熟の技と心が、最上の音楽として響かせる、感動のライヴ録音だ。
ソロ・コンサートで最後に弾いたのは、現役時代殆ど採り上げることのなかったバッハ。ここでその「コラール前奏曲」を選んだのは、彼のバッハに対する畏敬もさることながら、ブレンデルの師匠でありバッハ演奏の権威でもあったエドウィン・フィッシャーへの強い思慕のように感じた。

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コメント

zapさん、たびたび失礼。m(_ _)m

ブレンデルさん、何で現役やめてしまうんでしょうね。
くだんのモーツァルトを、6月にNHK-FMで聴き、今回のCDはクリスマス・プレゼントと称して嫁さんに進呈したのをちょっとだけ聴かせて貰い、やっぱり「何でやめてしまうんだろう」「勿体無いなあ」と思いました。あんな音も、こんな音も、どんな音もきちんと弾いて窮屈さを感じさせない、稀有な演奏家でした。ついに実演を聴けなかったのがつくづく心残りです。
嫁さんは、進呈したCDを聴いて、バッハの演奏が生演奏で受けた印象にもっとも近い、と申しておりました。

投稿: 赤壁周庵 | 2010.01.02 16:11

赤壁周庵さん

フェアウェル・コンサートのCDを聴いても現役をやめる理由はよくわかりませんが、12月6日の日経新聞に載っていたインタビュー記事によると、ちょうど60年で演奏活動を辞めることにこだわったように読み取れます。定年後は詩作に没頭するのだとか。
件のCDジャケット写真を見ると、指に絆創膏を貼っていて痛々しい感じです。どんな曲もしっかり真面目に弾くブレンデルさんにとっては、歳とってからの舞台でのパフォーマンスはキツかったんでしょうね。

zap


投稿: zap | 2010.01.04 23:07

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